前職ではスマートロックメーカーの責任者としてスマートロック事業の立ち上げ(0→1)を経験しました。スマートロックメーカーの1社として、日本国内におけるスマートロックビジネスの黎明期から業界にいたこともあり、スマートロック市場には結構詳しいと自負しています。
つい最近、経営者の知人から、簡易宿泊施設に設置するスマートロックの相談を受けたので、元メーカー責任者の観点から、スマートロックの選び方についてまとめました。一例としてシェアします。
①解錠方法
スマートロックを選ぶポイントは大きく3つ。
まず1つ目が解錠方法。
- 解錠方法はスマートロックそれぞれで異なる。主要な解錠方法はICカード、暗証番号(テンキー)、Bluetooth無線、生体認証あたり。
- 解錠方法はどれか1種類であったり、複数の解錠方法を併用できる商品もある。
- 製品によって同じ「ICカード解錠」であっても、操作方法(ICカードの登録方法など)や仕様が異なる(例えば登録できるICカードの枚数など)。よって解錠方法は多いにこしたことはないが、利用したい解錠方法を有し、且つ運用にマッチした操作ができる商品を選ぶ方が良い。
ICカード
- カードをリーダー部にかざすだけなので、とにかく操作が簡単なのが良い。スタッフや一見さんの利用者に対して、操作を説明しやすいというのは、運用面で結構大事。
- 事前にカードを登録しておく必要があるので、入居者やスタッフなど、頻繁に出入りするユーザーの解錠に向いている。不特定多数のユーザーのカードを登録するのは現実的ではない。
- 登録方法はスマートロック本体に登録したいカードを読み取らせる形が一般的。
- リーダーがFelicaに対応していれば交通系ICカードや電子マネーカードが利用可。
- Felicaカード(無地)はAmazonで10枚2,000円程度で購入可。
暗証番号
- 備え付けのテンキーに番号を入力するだけなので、カードやスマホなどが必要なく、手ぶらで開けられるのが最大のメリット。
- 登録した暗証番号を不特定多数に教えてしまうとセキュリティ面のリスクが生じるので、ごく限られた人しか番号を知らない使い方が望ましい。
- 暗証番号が自動的に切り替わるような製品もある(自動発番機能)。ただし、毎度番号を確認したり、番号を教えるのはオペレーションの手間になり得る。
- 各製品によって暗証番号の登録方法、変更方法が異なる。暗証番号の変更が容易でない製品の場合、頻繁に番号を変えるような運用は向かない。
Bluetooth無線(スマホアプリ)
- スマホのBluetooth機能を使って解錠する方法。
- あらかじめスマホに専用アプリをインストールしておく必要があるので、使い始めるまでのハードルが高い。ただし、別ユーザーに鍵の権限付与がしやすかったり、特定の日時だけ権限を付与するようなことができるので、セキュリティ面の自由度は高い。
- Bluetooth無線を使ったハンズフリー解錠や、遠隔地からのリモート解錠なども利用できるので、使いこなせればとても便利。
生体認証
- 「あらかじめ個人情報の登録が必要」and「手ぶらで解錠できる」ということで、ICカードと暗証番号の進化系のようなイメージ。
- 個人の生体情報を利用するのでセキュリティ強度は高い。
- 事前登録が必要なので不特定多数の解錠には向いていない。
- 手ぶら、且つセキュリティ強度が高いのは魅力だが、いかんせん本体価格が高くなりがち。
物理鍵
- 元々扉についている物理鍵(シリンダー錠)をそのまま残せるタイプの場合、物理鍵も併用できる。
- スマートロックの電池切れや故障時にも開けられるので、いざという時の保険として併用できると安心。
②取付タイプ(取付方法)
選定ポイントの2つ目は取付タイプ。
スマートロックは取付タイプによってメリット・デメリットが異なる。主な取付タイプは両面テープ型、シーズンテック型(後述)、扉加工型の3つに分けられる。
両面テープ型
- 室内側のサムターンに被せる形で、本体を両面テープで扉に固定する方式。
- 購入者が自ら取付できるので一番手軽であり、工賃もかからないのが魅力だが、テープが剥がれてスマートロックが落下してしまう場合もあるのが難点(実際経験あり)。一方で、簡単に外せるということは、賃貸物件で利用できたり、故障時の交換もしやすいという側面もある。
シーズンテック型
- 名古屋の電子錠メーカー「シーズンテック社」が考案した取付方式。
- シリンダーやサムターンを一旦外して、扉を挟み込むような形で本体を固定する独自の方式。絶対に外れない上、扉を加工しなくて良いので原状回復が必要な賃貸物件でも利用できるのが最大の特徴。ただし、取付はメーカー指定の業者が行う必要があるため工賃がかかったり、故障時にも業者に来てもらわなくてはならないのが難点。
- シーズンテック社が特許を取得している取付方式であるため、基本他社が真似できない方式(前職で開発したスマートロックはシーズンテックとの共同開発だった)。類似品も市販されているが、特許侵害していて商品回収リスクがあるため要注意。
扉加工型
- 扉に穴を開けて固定する方式。
- 絶対に外れないのはメリットだが、扉を加工してしまうので賃貸物件では不可。業者による工賃も高め。
③費用
選定ポイントの3つ目が費用。
費用は安ければ良いというわけではないので要注意。
- スマートロックに関する費用は主に本体購入費、取付工賃、システム利用料、保守費用などがある。
- 保守費用などのランニングコストはかからないに越したことはないが、その分サポート等は期待できるので、法人利用の場合はそちらの方が安心かもしれない。
- スマホアプリ(クラウド)と連携するスマートロックは本来運営費がかかって当然。にも関わらずランニングコストが無料のスマートロックは、サービス終了に伴いスマートロックが利用できなくなるリスクもある(過去にはそういう商品もあった)。
不特定多数に解錠させる場合の選び方は?
以上3つの選び方を踏まえて、不特定多数の人が利用するシチュエーション(簡易宿泊施設)を考える。
- スマートロックビジネスの経験上、あらかじめ宿泊者にスマホアプリを入れさせるのは運用上困難。生体認証は言わずもがな。
- 宿泊者側に用意してもらう方法だと、用意してもらえなかった場合の代替手段が必要→結局カードを渡したり、番号を教える羽目に。
- 暗証番号も固定番号だとセキュリティリスクがあるし、毎回番号を変えるのはスタッフの負担が増えるのでおすすめしない。
- そう考えるとICカードが一番現実的で最適だと考えられる。
- あらかじめ登録したICカードを用意しておき、チェックインの時にカードを渡す。
- ICカード解錠は操作も比較的簡単なので、チェックイン時に説明もしやすい。
- チェックアウト時にカードを回収。基本ICカードの複製は容易ではないので、回収できればセキュリティリスクは無いと考えて良い。
- 意図的にカードを持っていかれたり、返し忘れで持ち帰られてしまうケースもでてくると思うが、その場合は本体からカードの登録を削除してしまえば以後解錠できなくなるので問題ない。